
あるところから駅まで歩いて行かうと、道を歩いてゐて、静かで大きな夜空の下、自分が今どこにゐるのか分からなくなり(スマホを持つてゐないわたし)、しばらくさまよひ歩いてゐました。
街灯も乏しいところを歩いてゐて、だんだんと、のんきなわたしもなぜだか不安になつて参ります。
そんなとき、「ああ、かうして、若い時から道を歩いて、道に迷ひ、途方に暮れたこともたくさんあつたけれども、必ず、誰かに出会ひ、助けてもらへたなあ・・・」と想ひ起こすのです。
さうして、このたびも、中に明かりがついてゐる消防団の施設の前にやつてきました。
中で、人の声がします。人の声つて、かういふとき、とても暖かく感じるものです。
「すみませーん」とわたしが声を上げてみると、中から屈強な男の人が出てきてくれました。
「すみません、スマホを持つてゐないものですから、駅までの道が分からなくなつてしまひました。ここから、どう行けばいいでせうか」とわたしが尋ねると、その人は「どこから来たの」。
「はい、向かうのイオンからです」。「はあ、そんで、歩いて行くの」「はい」「遠いよ」「はい」「ちょつと待つてて」。
さう言つて、中に入り、仲間の人と話しした後、また出てきてくれて、「この前を流れてる奥入瀬川に沿つて、まーすぐ歩いて行つたら、線路にぶつかるから、そこを左に曲がつて、また、まーすぐ歩いて行けば、着くよ」と教へてくれました。
「ありがたうございます。助かりました」と言ふと、にこつと笑つて、「気をつけてね」と言ひながら見送つてくれました。
青森の南部の訛りのあることばが、何か暖かいものをわたしに贈つてくれるのでした。
スマホがないから、かうして、人に道を訊ける、といふこともあります。
さうして、奥入瀬川沿ひを、誰も人がゐないのをいいことに、大声をあげて、なぜだか笑ひながら、歩いて行きました。













