アントロポゾフィーは、新しい言語のスタイルが意味するものを理解するための基となるものだ。ここから何が生まれようとしてゐるのかを把握するためには、きつとアントロポゾーフになることになる。単なる知的理解を超えて、ここで扱つてゐる事柄をより深く生きるためには、密やかな学びの源に内において通じて行く必要がある。それは、わたしたちが光に向かつてだんだんと開いていく目となり、鈍い物質から出た肉眼が光の鋭さによってまづ鋭どくなり、感官における働きによって光を照り返すことで目覚めるやうに、世のまるごとに据ゑられてゐる感覚を与へてくれる、<わたし>の生きたなりたちの器官となるのだ。
ルドルフ・シュタイナーの密やかな劇の上演の目的は、オイリュトミーにまことの生命や人を支へる力、そして精神の火を注ぎ込むことであり、それは最も難しいことだ。オイリュトミーは精神といふものを織り交ぜたものだ。人のからだを道具として、その生命のからだの造形力にあるものを表現し、オイリュトミーになりかはらせる。その生命のからだのつくりとしてあるもの、そのつくりと動きとなる力になりかはらせられるべきものを、からだのない空気の流れの中で表現する道具として、人のからだを使ふのである。
この道の難しさは、様々な分野で努む多くの芸術家が、葛藤しながら、「話すことは最も難しい芸術である」という確信を持つに至つたほどである。
それは、すべての創造的な力がその中に隠されてゐること、すべての造形的な力、すべての調性的な力が、物質への束縛から解き放たれて、その中で表現されることを望んでゐることを知つてゐればの話である。
しかし、この解き放つための道筋をどのように見出せばよいのだらうか。
ドラマチックに構成された人物の主観を舞台上に反映させるだけでは不十分なのだ。確かに、自分にとつて異物である詩人の姿を主観的に彩るのではなく、その客観性において自分から切り離すのであれば、それは意味があることだ。空間と時間、歴史と自然は圧縮された本質の中に響き、わたしたち自身は透明であるべきなのだ。
精神における詩も同じことを要求してゐる。きつと、わたしたちは神々しいものに通じて行く。神々しいものにみづからを拡げていく。神々の創造物、世を感じることを学ぶことによつてのみ、それができるのだ。神々の創造は、彫塑として、音楽の波として、世をかたちづくり、内において、音の波として世に通ふ音韻として反映される。わたしたちは、音韻の力を、わたしたちとは関はりなく、進んで世へ羽ばたいていく翼の鼓動として感じる。難しい道だ。なぜなら、こころを主観的な力から切り離し、知的なものだけでなく感覚的なものも切り離すことになるし、世において、表現として外側が際立たされるのではなく、内側が外側に流れてゐることを感じられるやうにならなければならないからだ。後者になると、オイリュトミストはことばの身振りに沿ふことになり、手足を常に自分の方に引き寄せなければならず、動きの繰り出しが阻まれ、限られてしまふ。内なる感覚を生きることが、息の流れの中に滑らかに音楽的に溶け出し、音色の響きの中に色付けされ、想像力豊かに絵姿となつて繰り出して行く創造力になりかはるなら、ことばの内なるオイリュトミーは、外なる身振りをする者の持続力となり、外なる身振りからからだを切り離すことになるのだ。言語は、おほもとの詩において、リズム、拍、繰り返される母音の響き、頭韻で表現される。その中で考へと情がひとつとなつて生きてゐる。考へが抽象化され、情が内に引き込まれてしまふと、その間に生まれるのが散文化された言語である。おほもとの詩芸術を統べる道筋を再び見出さなければならない。再びそれらを見つけるために、わたしたちはルードルフ・シュタイナーに導かれる・・・ 。
* このエッセイの草稿はおそらく1926年、遅くとも1927年のものである。したがつて、このエッセイは、ドルナッハに次第に集まつてきた俳優たちとの作業の始まりに書かれたもので、そのほとんどは「言語造形と演劇芸術のためのコース」(1924>)にも参加しており、ルードルフ・シュタイナーはそこで引用した精神科学研究の成果とギリシャ人の五つの体育と舞台美術の関連性を伝へてゐる。ここでは、アントロポゾフィーの基本的な書籍と、芸術的な研究として特に考慮されるべき連続講義「アントロポゾフィー、サイコロジー、コスモロジー」(Gesamtausgabe Bibl.-Nr. 115)、特に1909年からのアントロポゾフィーの最初の講義に言及してゐる。
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