己れの剣ひとつで生きる武士のやうな精神をもつて、「いかにして人は生きるか」といふ学問に身命を賭した人たち。
当時の江戸時代の日本に存在した豪傑たち。
小林秀雄の『本居宣長』には、さういう人たちの精神が、小林のこころに映じるままに描かれてゐます。
近江聖人と言はれた儒学者・中江藤樹も、そのひとりです。
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先生の問ひに正しく答へるとは、先生が予め隠して置いた答へを見附け出す事を出ない。
藤樹に言はせれば、さういふ事ばかりやつてゐて、「活発融通の心」を失つてしまつたのが、「今時はやる俗学」なのであつた。
取戻さなければならないのは、問ひの発明であつて、正しい答へなどではない。
今日の学問に必要なのは師友ではない、師友を頼まず、独り「自反」し、新たな問ひを心中に蓄へる人である。
さういふ所から、彼は、「独学」という事をやかましく言つた。
(小林秀雄著『本居宣長 補記』17頁)
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たつた独りで「問ふ」こと。たつた独りで、ものごとに対して「問ひ」を立てること。他の誰もしない「問ひ」を発明すること。
もちろん、答へが欲しくて問ひを立ててゐる。
しかし、答へを得られようが得られまいが、そのことに拘泥せず、むしろ、即座に得られる答へなどには真実はないと思ひ定めて、問ひを立てる。立て続ける。
それは、意識を目覚めさせることと全く軌を一にしてゐる。
端的に、そのことに向かふこと。
それが、「学ぶ」といふことではないか。
江戸時代にすでにあつた、「独学の精神」です。
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