
執行草舟氏の最新刊『人生のロゴス』。
本屋に並ぶ初日に贖ひ、毎日、二頁から六頁程づつ読み続けてゐる。
見開き二頁づつに、大いなる先人ひとりひとりのことばが執行氏によつてひとつづつ選ばれ、見開いた左の頁には、そのことばを座右銘とし、ご自身の生をかたちづくつて来られた執行氏による、渾身の文章が記されてゐる。
これらのひと筆で描かれたやうな、ひとつひとつのことば、そして執行氏がそれらのことばにどれほど接近し、どれほど存在まるごとで交はつて来られたのか。
今日の時点では、まだ、十人の先人の方々のことばしか読んではゐないのだが、まさに、これらこそが、「ロゴス」と古代ギリシャで言はれたものではないかと念ふ。
それらひとつひとつのことばが(まさに「ひとつひとつ」である!)読むわたしの精神に強く重く響く。
他の本を読んでゐる時には鈍くしか響かないわたしの鈍い精神が、この書の一頁一頁、ひとことひとことに、強く響かせられ、揺り動かされ、目覚めさせられるのだ。
「ことば」「ロゴス」「言霊」とは、そのやうに、人の身の奥に眠つてゐる鉄床(かなとこ)を叩く鉄の鎚(つち)なのではないか。
手に繰る二頁ごとに、こころの鉄床から火花が飛び散る。
だから、さうやすやすと頁を繰りたくはない。
頁を遡り、また繰り返し、先に読んだ二頁を見つめる。
先ほど、「ひと筆書き」などと書いてしまつたが、その「ひと筆」に、先人の方々はどれほど莫大な命の元手を懸けてをられることだらう。
ゆつくりと、じつくりと、ひとりひとりに、ひとつひとつのことばに、付き合ひたい。
また、登場するそれぞれの人のポートレイトが高田典子氏によつてペン画で描かれてゐて、その表情、身振りが、まこと、その人の精神を映し取つてゐると直感する。
子どもの頃に読んだ文学作品などによく美しい挿絵が描かれてあり、とりわけ、子どもであつたそのころの自分にとつては、小さくない印象がその作品と共に我がこころに刻まれたものだが、ここに描かれてあるペンによる肖像画も、二頁ごとに創られてゐるこの精神の芸術、魂の芸術、人といふものの芸術作品を一層印象深いものに仕立ててゐるのだ。
190人による190のことば、そして執行氏による文章が収められてあり、彼のそれらの文章は、わたしにはどこか人類の嘆きと叫びのやうに聴こえて来る。
また、その文章は「批評するといふことは愛するといふことである」ことを証するものであり、そして、時系列に並べられてはゐないが、これこそ、「人としての歴史」が綴られてゐる書だとわたしに感じさせるのだ。
毎日、たいせつに、読んでゆきたい。
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