
宮沢賢治の「なめとこ山の熊」。この作品には、多面的な意味や魅力が詰まつてゐます。
しかし、とりわけ、このたびは、信仰といふものの深みをこの作品から引き出して、それを提示したい。
その希ひから、作品のまるごとから四つの場面を抜粋し、また、その希ひに叶ふやうなタッチで語ることに挑戦してみました。
(その一)熊といふ山の生き物を殺すこと。だからこそ、猟師の小十郎のこころが、祈りへと導かれて行く。その悲しみ・・・。
(その二)熊のことばが秘密をささやきはじめる。自然のまるごとが音によつて秘密をささやきはじめる。かつてはみづからのこころにとつて訳のわからない音であつたものが、意味に満ちた自然の言語となる。情を培ふ人ならばこそ、こころをもつて、聴きはじめる。
(その三)死んでゆく熊たちは、死んだ後も、生き続ける。熊は、死んでも、その息遣ひと血の巡りの調和を、宇宙へと、大いなる世へと、もたらす。熊の胸の領域におけるその調和は、この世とあの世との調和を促す。その調和ゆゑに、人は、熊を山の神として崇めてゐた。山はこの世とあの世とを繋ぐところであり、熊は山であつた。そして、神は、我々、人に、その身を捧げて下さつてゐる。
(その四)生と死、その幽明の境を超えて、人と世は生きてゐる。死といふものがあるからこそ、悲しみと共に「美しさといふもの」を知ることができる、生きることができる・・・。
賢治の描く物語、紡ぐことばから、わたしたちは、感官を超えて生きることの予感を持つことができます。
「信仰といふものの深み」をこの四回の言語造形で引き出せただらうか・・・。ああ、道のりは遠いのです😇
動画をコメント欄に掲載してゐます。よろしければ、どうぞお聴き下さい。
「信仰といふものの深みを引き出したい」と書きましたが、言語造形といふ芸術は、いつも、作品といふ作品、ことばといふことばから、こころの、信仰の、祈りの、精神の、強さ、深さ、確かさ、美しさを、引き出すものだと感じてゐます。
このやうにして動画に収録することも、一回一回が、ひとつの舞台作品創りで、何度も何度もやつてはやり直し、やつてはやり直しといふ、その作業は、多くの苦しみを伴ふのですが、その苦しみがまた、とてつもなく楽しいのです。楽しんで、苦しんでゐる、といふか・・・。
なぜ、楽しいのか。それは、きつと、美とまことに向かつてゐるからだと思ふのです。
この作業は、間違ひなく、子どもの時の遊びの延長線上にあります。
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