仕事の必要上、読みたい本、読まなければならない本が、本当にたくさんあつて、これ以上、読む時間を取れそうにないのにもかかはらず、小川榮太郎氏の「作家の値うち」を買つてしまつた。自分自身に「買うたらあかん、買うたらあかん」と言ひ聞かせてゐたのにもかかはらず、書店で手に取り、ページを繰り始めるやいなや、100人の日本人作家による505の現代文学作品の魅力とつまらなさを、一作一作述べてゐるこの書をレジへ持つて行くことになつてしまつたのでした。これはあきません。このガイドブックのページをめくるほどに、読みたい本が出て来る、出て来る。思はずAMAZONでぽちっとしたくなる誘惑に勝つことが、今の課題です。それでも、カズオ・イシグロの「わたしを離さないで」と宮本輝の「蛍川・泥の河」を贖ひ、隙間の時間を使つて読んでしまひました。小川氏の高評価に沿つてのことです。この二冊の文庫本を読んだだけでも感じてしまふ、もののあはれ。ああ、なんと、豊饒な人の世よ。それは、文学者・詩人によつて産み出される人の深い愛と叡智に他ならない。そんな同時代を生きてゐる人によつて紡ぎ出されることばの芸術を紹介してくれてゐるこの「作家の値うち」。本当にありがたく、かつ、とてつもなく、面白いのです。
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