石村利勝氏の第一詩集が出版されました。
これほど出版を待つた本は、これまでになかつたことでした。
春、夏、秋、冬、四季の巡りに添つて「詞(ことば)」が綴られ、最後に「SONATINE」と題された一連の恋愛詩で構成された、一冊の詩集です。
いにしへにおいては、本を読むといふことが、晴れやかな日の晴れのことであつたこと。
第一頁を開き、まづはそのやうなことを想ひ起こしてしまふ、懐かしくも不思議な手触りを感じたのでした。
この混乱した世情のさなか、しかし、季節は確かに秋へと移りゆく、このとき、わたしは、この詩集の【秋の詞】ばかりを、手元に届いてからのこの三日間、ずつと、夜更けに訓み続けてゐます。
さうして訓むことで、こころの深みからなにがしかが引き出されて来るのをゆつくりと覚えるのです。
その覚えは、こころにありありと感覚されるそれでありつつも、しかし、ことばにできない、風の色のやうな、立ち上がり、舞い上がり、吹きすぎてゆくやうなおぼろな絵姿なのです。
それら様々な絵姿・イマジネーションは、我が胸の奥を突くやうにわたしに働きかけて来、情を揺さぶり、震はせます。
さらには、我がこころから引き出されて来る、これらの力が、創造的、生産的な力であることも、いま、予感されてゐます。
まだ、秋の詞にしか接してゐないのですが、これらの作品が、この世の次元を超える遥かな過去をどこかわたしには感じさせるのにも関はらず、確かなリアリティーと共に、すべてがまことの人間性を湛へてゐると直感されるがゆゑに、この一冊は創造性と生産性をわたしに促す精神の教科書になつてゆく、そんな予感なのです。
この詩集には、著者が21歳(1990年)から27歳(1996年)までに書き記した最初期の作品が選ばれてゐます。
青年のこころと精神が織りなしたこれらの作品に、56歳の自分がこのやうに胸を衝かれるのは、どういふことなのだらうと、考へて続けてもゐるのです。
ひとりの人の、こころからの敬ひが注ぎ込まれた、日本の文学。
そして、著者の友であり、文芸評論家である小川榮太郎氏の真実の献身により、根底で支へられた日本の文学。
まづは、そのやうに、感じてゐます。
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