ここ二週間ほど、明治から昭和初期にかけての文人、幸田露伴をずつと読んでゐました。二十年ぶりぐらゐの再読です。
娘の幸田文から読み始めたら、まう、その父親のものを読まずにはゐられなくなつたのでした。
「五重塔」から始めて、「太郎坊」「貧乏」「夜の雪」「雁坂越」「蒲生氏郷」に、とりわけ魅せられました。改めて、堪えられない味はひだと思ひました。
二十四歳の時に「五重塔」を書いたなんて、まう天才としか言ひやうがありません。小学校は成績不良で落第し、中学校は中退し、図書館で独りで学びつつ、こつこつ、こつこつと、文章道に邁進して行きました。
「努力論」「音幻論」といつた随筆もとても魅力的ですが、露伴の何がわたしにとつて最も魅力的かといふと、「人としての美しい生き方」をこの人は尊んで、文章に刻み込んでゐるといふ一点です。
その骨の部分を娘の幸田文も確かに最大の敬意と畏れと愛情をもつて受け止め、彼女ならではの筆の運びの細やかさと闊達さと艶を感じさせますが、やはり父親は偉大でした。
美しい生き方。
それは、いくらしたくても言ひ訳などせず、自分の仕事に全身全霊を注ぎ込む人にして初めて表れるものであること。
さういふ生き方を、文章で示してくれる文人を、本当にわたしは好みます。ありがたいです。自分を恥じます。たいせつなことを想ひ起こさせてくれます。
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