自分の目で文字を追ふ黙読とは違ひ、誰かにお話を読んでもらふといふことは、本当に特別な体験です。
とりわけ子どもたちにとつて、お母さんやお父さん、先生などの声によつてお話が読まれ、語られることで、大人が、親が、一緒に物語の世界の中を歩いてくれてゐる、そんな幸福な一体感をもつことができるのです。
よく、子どもが同じお話を繰り返ししてほしい、同じ絵本を繰り返し読んでほしい、と親にねだるのは、繰り返しを愛する幼い子ども特有の意欲の働きであると共に、この「一体感」を何度でも味はひたいからなのです。
今日の絵本は、日本昔話から、松居直再話、赤羽末吉絵の『だいくとおにろく』です。
昔話や伝説では、ある領域ともうひとつの領域との間に、「川」が流れてゐることがよく出てきます。
お話を聴く子どもたちにとつて、その子、その子なりの領域から新しい領域への境を超えなければならない時が、遅かれ早かれやつてきます。
その時の、川を渡るかのやうな、橋を架けるかのやうな、恐れを乗り越える経験。
それは、このお話におけるやうに、「おに」の正体(本当の名前)を知る時、なのかもしれません。
そして、大人にとつては、この鬼は、精神の世の境にをられる「境の守」なのです。
この絵本を何度も何度も読み聞かせてあげること、それは、そんな境を超えようとしてゐる子どもへの、そして読むわたし自身への、密やかな応援なのです。
●こんな読み方をしてみては?
いちいちのことばや言ひ回しには、必ず、身振りといふものがあります。
必ずしも身振りをからだの動きとして表さなくても、その身振りを感じながら声に出してみることで、俄然、ことばが生命感を持つてきますよ〜!
このお話の最後の「おにろくっ!」とどなる場面では、必ずしも大きな声を出す必要はなく、強くはつきりと鬼に向かつて指し示すやうな身振りを感じてゐれば、ていねいに静かに声を出しても、相応しい響きにおのづとなります。
その指し示す身振りこそが、聴いてゐる子どもに、「こころを決める力」「意志の力」を感じさせるのです。
その力は、人生にとつて、とても大切な力です。
どうぞ、試してみてくださいね。
【楽しんで読み聞かせをするポイント】
@まづは、息を吐きながら一文一文ゆつくりと
Aことばの身振りや、物語の絵姿を感じながら
B一音一音をていねいに
アントロポゾフィーと言語造形「ことばの家」
https://www.youtube.com/user/suwachimaru/videos