2021年01月06日

青森公演から「人形 (小林秀雄作)」




この青森公演の時にピアノを弾いて下さつた山本恵美さん


その音色の細やかでありつつも芯の通つたある種の強さに魅せられました。そして、さらに素晴らしく感じたことは、彼女がことばの息遣ひに呼応してピアノを弾き出し、弾き終へる、その間(ま)を共に生きる絶妙の感覚です。


リハーサルの時に山本さんにその感覚の素晴らしさについてお伝へした時、それは彼女が携わつてゐる認知症高齢者の音楽療法の臨床の経験から、相手に合はせて聴き耳を立てることをずつとしてきたからだと思ひます、とお答へ下さいました。


彼女は、青森県十和田市在住で、20年以上、認定音楽療法士として障がいのある方々や高齢者とのセッションを行って来られ、ピアノ教室もされてゐます。


令和2年12月6日 青森県十和田市東コミュニティセンターにて行ひました言語造形公演『やさしい世界の終はり方』から、諏訪耕志による語り「人形」と山本恵美さんによる繊細なピアノ演奏「Lullaby〜こもりうた〜(S.マイカパル作曲)」をお聴きください。


この「人形」といふ作品は、幾重もの細やかな情の衣を纏つてゐます。そしてその内に静かだけれども響き続けてゐる「もののあはれ」。日本人こそがとりわけ感覚できるものを、小林は薄い墨でさつと描いてゐるのですが、そこに籠められてゐる悲しみとユーモアが、わたしには澄み渡つて聴こえてきます。


和歌、そして俳諧(俳句)のやうに、極限まで切り詰めたことばの響きの内に、深々と揺蕩ひ、沈み込むやうなこころの営みと、世のまるごとに亘るやうな精神の運動を包みこむ、そんなことばの芸術が、日本といふ国に育つてきました。


「もののあはれを知る」。その文学の持つ意義を、昭和の人、小林秀雄もその批評文の中に、見事に引き継いでゐます。


この「人形」といふ小さな作品は、しかし、批評文ではありません。「もののあはれを知る」人が記しとどめた、文学の持つ機能を深める、ひとつの金字塔のやうなエッセイです。


行間といふ間(ま)に鎮められてゐる、もののあはれをわたしも引き上げたい一心で、この作品に取り組んでゐます。





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