
今日の言語造形のクラスで、石垣りんの詩「儀式」に生徒さんと共に取り組んだのです。
「儀式」石垣りん
母親は
白い割烹着の紐をうしろで結び
板敷の台所におりて
流しの前に娘を連れてゆくがいい。
洗い桶に
木の香のする新しいまないたを渡し
鰹でも
鯛でも
鰈でも
よい。
丸ごと一匹の姿をのせ
よく研いだ庖丁をしっかり握りしめて
力を手もとに集め
頭をブスリと落すことから
教えなければならない。
その骨の手応えを
血のぬめりを
成長した女に伝えるのが母の役目だ。
パッケージされた肉の片々(へんぺん)を材料と呼び
料理は愛情です、
などとやさしく諭すまえに。
長い間
私たちがどうやって生きてきたか。
どうやってこれから生きてゆくか。
何度も何度も取り組んでいくうちに、朗唱してゐる者も聴いてゐる者も、たつた一語と一語の間に、涙が溢れてくる時が突然やつて来たのでした。
それは、語と語のあひだ、音と音の間(ま)に隠れてゐた秘密の扉が開けられ、詩の作者の思ひや意図を遥かに超える、人類の抱き続けざるをえない悲しみが溢れ出て来たのでした。
たつた一音の扱ひによつて、人は激しく情を動かされたりするのです。
ことばの芸術によつて、そこに集まる人たちが皆、涙を流す。
このやうな小さな場において芸術・文化・精神が育まれて来たこと、芭蕉の俳諧、連句の場などで江戸の元禄時代には特に集中的になされてゐました。
まことと美、それを真ん中に据ゑて、こころを開いた少数の人が集まる。そんな芸術共同体が、ふたたび、日本の各地に数多く生まれて来ることこそ、文化の国、日本の再生を促します。
クラスの終はりに、秋の七草の花の名を歌つた山上憶良の萬葉歌を言語造形でたつぷりと味はひました。
萩の花 尾花 葛花 なでしこの花
女郎花 また藤袴 朝貌の花 (萬葉集 1538)
花の名を唱へるだけで、花といふものの精神が空間一杯に拡がり、花の神さまと交はることの喜びを感じることができるのです。
この国の精神文化をふたたび甦らせることができると信じて、また今日も励んでゐます。
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