
19世紀の初頭に生きたスペインの作家、マリアーノ・ホセ・デ・ラーラ。彼は27歳の時、みづから死を選んでしまつたのですが、彼のエッセイ『1836年クリスマスイヴ』の中の一文を見て(執行草舟氏『脱人間論』から)、こころが揺さぶられ、考へてしまひました。
「人のこころは何かを信じる必要がある。信じるべきまことがない時、人は嘘を信じる」
信じる。それは、その人がその人であるためのぎりぎりの力じゃないだらうか。
信じることを諦めてしまはざるをえなくなつてしまつたこころは、己れをも世をも、共に失ふ悲惨を生きねばならない。
しかし、嘘でもいいから信じたい、と叫ぶこころは、やがて悲劇の中に突入していかなければならないのだけれども、それでも信じることを諦めずに己れと世との紐帯を繋ぎ止めてゐる。
たとへ、どれほど嘘が横行する世であつたとしても、世にはまことが、きつとある。さう信じる力はどこから来るのだらう。こころの奥底から、としか言ひやうがない。
信じる力は、考へる力よりも、もつと深い力。昔からの力。こころの底力。
自分が自分でありつづけるために、かつ、人と共に、世と共にありつづけるために、このこころの底力、信じる力を護り、育てる工夫を自分は毎日してゐるか。
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