これまで何度か、
この書を愛読して来たのですが、
読み継ぎつつ終はりが近づくにつれて、
つまり、ゲーテの死が近づくにつれて、
このたびほど悲しみが込み上げてきたことは
なかつたやうに思ひます。
ゲーテといふ、
溌剌として美しい精神を宿した人が、
この世から去つていくことが、
こんなにも悲しい。
これほどまでにゲーテの精神を
面目躍如として描くことができたのは、
ひとえに、エッカーマンといふ人の持つ、
ゲーテに対する尊敬と愛ゆゑに他ならない。
最後まで読み終へ、
ゲーテの亡骸の胸に、
エッカーマンが手を当てるところに至ります。
その静かな、静かな時。
その時に、
エッカーマンが感じたであらう、
悲しみと惜別の念の何十分の一かをわたしも感じ、
込み上げてくる涙を抑えることができませんでした。
精神を体現した美しい人がこの世を去ることほど、
わたしの胸を強く深く打つものはありません。
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