
前田英樹氏の『愛読の方法』を再読。
一冊の本を愛読する。それは、わたしに、静かな時間、熱い時間を取り戻させてくれます。
つまり、真に「読む時間」に、わたしは立ち戻ることができるのです。
真に「読む時間」。さういふ時間がどれほど侵食されてゐるか。それは、ひとりで生きる時間です。より精確に言ふと、尊敬する先人と共に生き、ことばを交はし合ふ時間です。
愛読に愛読を重ねる。さうして、もはや、嘆賞するしかないところまで、その本の一文一文の底へと掘り進める。
さういふ喜びが、こころの柔らかな人の前に拡がる。
一冊の本の前に留まつて愛読すること。それは、こころを耕すことです。こころの硬くなつた表土を、掘り起こして、掘り起こして、柔らかく鋤き込むことです。
さういふ喜びに向かふ行為は、尊敬する人との対話に熱中できる喜びであり、とくに古典の場合には、遠く死んだ人への祈り、礼拝でもあります。
そんな無私の、からっぽの自分に立ち返り、ただ、強い振動だけが自分の中に満ちる時間。
その喜びを重ねていきたい。さう思ひます。
●古典は、ひとつの時代にたくさんの読者を得た本ではない。ひとつの時代にゐる少数の読者が、絶えることなく蘇つては、読み継いでゐる本である。そこには、時代を貫いて生き続ける愛読者の系譜といふものがある。古典を巡る愛読者の系譜にみづから入り込むことほど、多くの人間が、孤独や絶望や嫉妬や怨恨から救はれる道はないやうに思はれる。
(ちくま新書 102ページ)
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