
サマセット・モームの『月と六ペンス』。
初めて読みました。
上っ面なことばを一切発しない男、
チャールズ・ストリックランドの物語。
芸術と精神。
男と女の間に生まれる魔の相。
人間といふものの醜さと悲しさと崇高さに、
こころがきりきりと、
時間から時間のさらに奥へと、
引き摺り込まれてしまふ、
わたしにとつてはそのやうな作品でした。
しかし、ここに描かれてゐる、
生と死を突き破つても、
まだ進むことを止めない精神といふものを
我が身で生きないうちは、
この作品の本当の怖さを感じることはできない、
さう思ふ。
死といふものを
目前に据えざるをえないときがあるならば、
そのとき、またふたたび、
この作品に出会へるだらうか、
さう思ふのです。
いや、むしろ、
かう言つた方がいいのかもしれません。
この作品にぶち当たることができるやうな、
人生を創ること。
崇高な作品は、
凡人であるわたしを叱咤激励するのです。
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