
サマセット・モームの『月と六ペンス』。初めて読みました。
上っ面なことばを一切発しない男、チャールズ・ストリックランドの物語。芸術と精神。男と女の間に生まれる魔の相。
人間といふものの醜さと悲しさと崇高さに、こころがきりきりと、時間から時間のさらに奥へと、引き摺り込まれてしまふ、わたしにとつてはそのやうな作品でした。
しかし、ここに描かれてゐる、生と死を突き破つても、まだ進むことを止めない精神といふものを我が身で生きないうちは、この作品の本当の怖さを感じることはできない、さう思ふ。
死といふものを目前に据えざるをえないときがあるならば、そのとき、またふたたび、この作品に出会へるだらうか、さう思ふのです。
いや、むしろ、かう言つた方がいいのかもしれません。この作品にぶち当たることができるやうな、人生を創ること。
崇高な作品は、凡人であるわたしを叱咤激励するのです。
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