2019年04月27日

読まれるべきことばを読む国語教育

 
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例へば、小学校六年生の授業参観に行くとする。
 
そこでは、「日本の古典(俳句・短歌)を味わおう」といふテーマで、授業が行はれてゐる。
 
しかし、その国語の授業を見させてもらふと、いろいろなことを考へさせられる。
 
教科書に載つてゐる詩歌の何人かの作者の顔写真を黒板に貼り出し、この歌の作者は誰かを子どもたちに当てさせる授業である。
 
そこで唱へられる詩歌も、一回だけ、ぼそぼそと発声されるだけで、その詩歌やことばの味はひなど全く感じられない。
 
つまり、詩歌といふことばの芸術作品を先生はどう扱つていいのか分からないのだらう。作者の顔を当てさせたり、その詩歌の中にどんな言葉遊びが潜まされてゐるかを子どもに当てさせるのが、子どもたちの気を引く、その時の最上の手段だと思はれたのだらう。
 
我が国の文化を支へる、最も大切なものである国語教育が、小学六年生の時点でかういふものであることに、愕然としてしまふ。
 
しかし、わたしたちが受けて来た国語教育も、おほよそ、このやうな線でなされてきたことを思ひ起こす。
 
だいぶん前になるが、水村美苗氏によつて書かれた『日本語が亡びるとき』といふ本が随分話題になつた。
 
わたしもその本には魅了され、幾度も読み返した。
 
子どもたちへの国語教育の質いかんによつて、わたしたちが営むこの社会を活かしもすれば殺しもすることを多くの人が認識してゐないこと。
 
国語教育の腐敗によつて、必ず一国の文明は亡びゆくこと。
 
そのことは、多くの他国の歴史が証明してくれてゐること。
 
その時代の典型的な精神は必ずその時代に書かれた文学作品に現れるが、現代文学の実情を「『荒れ果てた』などという詩的な形容はまったくふさわしくない、遊園地のようにすべてが小さくて騒々しい、ひたすら幼稚な光景であった」と帰国子女である彼女は痛覚する。
 
そんな「ひたすら幼稚」である、現代のわたしたちのことばの運用のあり方から、どのやうにすれば抜け出すことができるのか。
 
未来にとつて最も具体的な、ひとつの処方箋を彼女は挙げてゐる。
 
「日本の国語教育はまずは日本近代文学を読み継がせるのに主眼を置くべきである」
 
なぜ、さうなのか、この本はとても説得的な論を展開してゐる。詳しくは、ぜひ、この本をお読みいただきたい。
 
また、水村氏のこの論を、より明確に、より奥深く、批評してをられる小川榮太郎氏の『小林秀雄の後の二十一章』の中の「日本語といふ鬼と偉さうな男たち」も読まれることを強くお勧めしたい。
 
国語教育の理想とは、〈読まれるべき言葉〉を読む国民を育てることである。
 
そして、その言葉を声に出して表現していくことが、さらにたいせつなことである。
 
どの時代にも、引きつがれて〈読まれるべき言葉〉があり、それを読みついで行き、それを高らかに詠ひあげることのできることがその国ならではの文化であり、その国のいのちなのである。
 
子どもたちへの国語教育。わたしたち自身の国語教育。
 
これはわたしたちの国づくりだと念つてゐる。
 


posted by koji at 08:08 | 大阪 ☁ | Comment(0) | 断想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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