
「百人一首の歌をいまやつてるねん」と言ひながら、小学四年生の次女が、国語の教科書を持つてきました。
奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の
声聞く時ぞ秋は悲しき
猿丸大夫
秋風にたなびく雲の絶え間より
もれ出づる月の影のさやけさ
左京大夫顕輔
嵐吹く三室の山のもみぢ葉は
龍田の川の錦なりけり
能因法師
鹿の鳴き声が悲しいといふこと。
雲からもれ出づる月の光をうち見るときの感覚を「さやけさ」といふことばで言ひ表すといふこと。
川面に落ちたたくさんのもみぢの葉の流れる様を「錦」と見立てること。
子どもにとつては、いまだ経験したことのない景色と感情かもしれません。
しかし、まづ、このやうに、日本人は、詩人によつて「選ばれたことば」で、世を観ることを習つてきたのです。
さうして、鳴く鹿の声は悲しく哀れだ、散る桜は美しい、と感じてきたのです。
そのやうに詩に、歌に、誰かによつて、ことばで言ひ表されてゐなければ、ただ、鹿が鳴いてゐるだけであり、ただ、桜の花びらが時期が来たので散つてゐるだけとしか、人は感じられないはずです。
国語とは、価値観であり、世界観であり、人生観であり、歴史観です。
世は美しい。
その情を最も豊かに育むことができるのは、小学生のころ。
国語の風雅(みやび)を謳歌してゐる古い詩歌が、そんな教育を助けてくれます。
この世がどんな世であらうとも、子どもたちのこころの根底に、「世は美しい」といふ情が脈々と流れ続けるやうに、わたしたちができることは何だらう。
そんなことを思ひました。
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大阪・名張 言語造形公演『山月記』
11月30日(金)・12月1日(土)
https://kotobanoie.net/play/
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ことばの家 クリスマス公演・キリスト生誕劇2018
2018年12月25日(火)17時開演
於 大阪市立阿倍野区民センター小ホール
https://www.facebook.com/events/894100854122598/
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2019年1月開校!
『言語造形と演劇芸術のための学校』
https://kotobanoie.net/school/
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