2018年09月26日

国語への痛切な思ひ 〜ドーデ『最後の授業』〜


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フランスの作家ドーデの『最後の授業』をご紹介したい。
 
1871年、普仏戦争に敗れたフランスはドイツに領土を奪はれる。いよいよ祖国と別れなければならないといふ深刻な悲劇を迎える、その朝、村の小学校のアメル先生が、フランス語の最後の授業に立つ。
 
「みなさん、わたしが授業をするのはこれが最後です。アルザスとロレーヌの学校では、ドイツ語しか教へてはいけないといふ命令がベルリンから来ました。・・・新しい先生が明日見えます。今日はフランス語の最後のお稽古です。どうか注意してください。」
 
先生のことばに愕然として、いつもとは全く違つた真剣なまなざしで耳を傾ける子どもたちの前で、先生はフランス語について話しを始める。
 
「フランス語が、世界中でいちばん美しい、いちばんはっきりした、いちばん力強いことばであること」
 
「ある民族が奴隷となつても、その国語を保つてゐる限りは、その牢獄の鍵を握つてゐるやうなものだから、わたしたちの間で、フランス語をよく守つて決して忘れてはならないこと」
 
そのやうなことをアメル先生は語る。
 
「とつぜん教会の時計が十二時を打ち、続いてアンジェリリュスの鐘が鳴つた。と同時に、調練から帰るプロシア兵のラッパがわたしたちのゐる窓の下で鳴り響いた・・・。アメル先生は青い顔をして教壇に立ちあがつた。これほど先生が大きく見えたことはなかつた。
 
『みなさん』と彼は言つた。『みなさん、わたしは・・・わたしは・・・』
しかし何かが彼の息を詰まらせた。彼はことばを終えることができなかつた。そこで彼は黒板の方へ向きなおると、白墨をひとつ手に取つて、ありつたけの力でしつかりと、できるだけ大きな字で書いた。

『フランスばんざい!』
 
さうして、頭を壁に押しあてたまま、そこを動かなかつた。そして、手で合図をした。

『もうおしまひだ・・・。お帰り』」
 
 
このやうな国語への痛切な思ひをもたないで、子どもたちに何を伝へると言ふのだらうか。
 


posted by koji at 22:51 | 大阪 ☔ | Comment(0) | 読書ノート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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