五年前、ジブリの映画『風立ちぬ』を観た時の「美」について感じた拙文章です。
その映画の中で、主人公が何度か「美しい」といふことばを言つてゐました。
「美」とはなんだらう。
「美といふ考へ・イデ―」・・・。
考へ・イデ―といふものは、そもそも、目に見えません。それらは精神の世にあります。
この世に実現されるべき「理想」といつてもいいのではないでせうか。
その考へ・イデ―・理想が見事に整ひつつも活き活きと躍動しながら、この世の何かに宿つてゐるのを見いだした時に、そのイデーをことばにできず、ことばになる前に人は「美しい」と感じてしまふ。
主人公は、大空を駆け巡る飛行機のフォルムと機能性にその「美」を追ひ求めてゐます。
さう、飛行機といふイデ―そのものが、きつと、「美」を体現しうるものだといふ憧れと予感を手放さずに、その「美」を実現するために飛行機の設計に取り組みつづけます。
飛行機が戦闘機として人を殺戮するための兵器であることを求められたとしても、彼は、子どもの頃からこころのうちに大切に育んできた「美といふ理想」を決して手放さず、その「理想」の実現のために毎日を静かに、しかし、懸命に生きます。
それは、人が空を飛ぶといふイデ―そのものが、もう既に「美」であり、「人であることの更なる可能性」であると彼が感じてゐるからなのでせうか・・・。
そして、彼はこころの次元に於て、既に空を飛んでゐます。美しく大空を駆け巡つてゐます。
既にこころに於て理想を生きてゐる人が、己れのこころのありかたに等しい世界を求めるのでせう。
「美」を求める生活、「美」を追ひ求める生き方、それは、表層のものではなく、既にもうこころに宿つてしまつてゐる「理想としてのわたし」を、ただ表の世界に実現する、その人その人のありかたなのでせう。
こころの奥に「美」を既にもつてゐる人こそが、その「美」に等しいものを外の世界にも見いだし、創りださうとする。
そのやうな、美を求める唯美的、理想主義的精神は、この世の経済戦争、政治戦争、そして人と人とが実際に殺し合ふ本物の戦争に於ては、必ず、敗れ去るでせう。
しかし、この世では敗れ去るからこそ、逆に精神として勝ち、時の試煉を経て必ず人から人へと引き継がれていく不朽の生命を得る。
そのやうな逆説をわたしたちはどこまで本気になつて受け止めることができるでせうか。
映画から、そのやうなことを感じました。
宮崎駿氏の言ふことや書く文章は、個人的にはわたしはあひ入れられないところが多々あります。
一見グローバルに拡がる意識の連帯・共有を目指しながら、その実、狭い戦後的言論空間に無意識的に閉じ込められてゐる知識人特有の悲しさを感じてしまふのです。
しかし、彼が、それこそ、意識の向かうから引つ張られるやうに描いてしまふ画像の連なりから必然的に生まれて来る物語には、ほとほと魅せられてしまひます。
不思議なことです。
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