
和歌(やまとうた)の学びは、まづ、先人の歌つた歌を一首一首深く味はひながら、できる限り数多く見て読んで声に出して歌ふことが肝心なことではないかと思つてゐる。
『萬葉集』はこの国で最古の詩歌集であり、最高の詩歌集であり、一昨年あたりから漸く、わたし自身はその『萬葉集』の魅力に腰を据えて触れ始めた。
さらに、本年平成三十年は明治維新より百五十年目といふまことに記念すべき年であるゆゑか、元日より明治天皇のお歌を集めた御集に触れ始め、その御歌心のみずみずしさ、清新さ、若年時から示される懐の深さ、剛毅さに、たちまち魅了され、驚嘆措く能はずといふ毎日を過ごしてゐる。
歌は、人のまごころを表す。
そもそも、政治のおほもとは、歌なり。法とは、そもそも、人のまごころからの生き方を高らかに歌ひ上げるものであつた。
よつて、明治天皇は、驚異的に御多忙を極める当時の御政治の只中にこそ、歌を歌はれ続け、歌道こそが、この日の本の国を根柢に於いて支へるものであり、決してそれが有閑時の戯芸でないことを、その御生涯をもつてお示しになられた一大歌聖であられた。
その歌は、教訓を民へと垂れるやうなものではなく、すべてがご自身のこころの奥底から溢れ出づる御述懐であるゆゑに、まことのことばの芸術がもたらす徳用(さきはひ)となつて、わたしたち民間人(草莽の民)のこころの糧となるものである。
下の歌は、明治天皇の御年十八歳から二十一歳(満十六歳から十九歳)の時の御製歌。
天地自然の循環の道に従ひ給ふこと、この国の古(いにしへ)からの政治の根本であり、かつ、おほらかで、雄大な御気風の趣きをはやくから示されてゐる。
千代よろづ かはらぬはるの しるしとて
海辺をつたふ 風ぞのどけき
ふく風も のどかになりて 朝日かげ
神代ながらの 春をしるかな
日にそひて けしきやはらぐ 春の風
よもの草木に いよよふかせむ