門厳にして九重(きゅうちょう)静かに
窓幽にして一室閑(いっしつ かん)なり
好し是れ心を修する処
何ぞ必ずしも深山に在らん
(『禁中』白楽天)
執行草舟氏はその著書『友よ』の中に、この白楽天の詩を取り上げてゐます。
●人々が住むその家を本当に大切にしたならば、そこはまぎれもなく、各々の人にとっての宮中になるという意味で、我が家を禁中と表現しているのだ。
●「門」を厳重にして、念には念を入れて戸閉まりをし、また出入りをする人間の質を選ばなけばならない。そうすれば、宮中と同じ厳粛さが生まれ、思索を行うにまたとない、静かな環境を我々に提供してくれる。
●肉眼をもってみえないものを「幽」と言う。つまり、外を見ない人間にならねばならぬ。『静にして閑』とは、この世の中で最も豊かな場所を表す。それは自己が意志で創るのである。
●心とは実に繊細な生き物なのだ。心は、真に美しく静かで豊かな場所でしか育むことはできない。だから、自己の心を修練し育み成長させる人物は、その環境を生み出す勇気をもたなければならない。
●自分のいる場所で、いつでも宮中のような静けさを創り、深山へ籠ったような深遠さを創り出せる人こそが真の人物なのだ。このことがわかれば、自分の家はこの世で最高の場所となり、自分の周りは最高の環境をいつでも維持できるようになる。またそのようにならなければ、人間は、決して本当の心の修練はできないのだ。
「己れ」「家」「宮」とは、大切に守り育みたいものを、じつと見つめる場所。
その人の意志次第で、そのやうな時と場所を意識的に創ることができる。
その人の意志次第で。
いつでも、どこでも。
【読書ノートの最新記事】
- 写真という信仰の道 〜日高 優著「日本写..
- 前田英樹氏著「ベルクソン哲学の遺言」
- 近藤康太郎著『百冊で耕す』
- アラン『幸福論』から
- 小林秀雄『ゴツホの手紙』
- 辞典ではなく註釈書を! 〜保田與重郎『わ..
- 前田英樹氏著「愛読の方法」
- 前田英樹氏「保田與重郎の文學」
- 江戸時代にすでにあつた独学の精神 小林秀..
- 前田英樹氏『保田與重郎の文学』読書ノート..
- 前田英樹氏『保田與重郎の文学』読書ノート..
- 吉田健一「本が語つてくれること」
- 執行草舟氏『人生のロゴス』
- 学びについての学び 〜小林秀雄『本居宣長..
- 小川榮太郎氏『作家の値うち』
- 芸術としての文章 遠山一行著作集(二)
- 精神の教科書 詩集ソナタ/ソナチネ
- 語り口調の闊達さ 福翁自傳
- 柳田國男 ささやかなる昔(その一)
- 幸田露伴 〜美しい生き方〜