12歳の時、小遣ひで生まれて初めてわたしが買つたLPが、この『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band 』でした。
それからといふもの、學校から歸つてきては、毎日毎日、聽き續けました。
あのときに感じてゐた、この音樂の持つ魔法のやうなものは、わたしの毎日を劇的にひつくり返したのです。
そして、今年2017年。このアルバムが世に出て50年。いま聽いてもそのみずみずしさを感じることができます。
なぜなんだらう、と、2014年發賣のモノラルアナログ盤で改めて聽き直してみました。
彼らは1966年の夏を最後にライブツアーをやめて以來、自身の内側で成熟してきた新しいアイデア、音樂的見識、レコーディングの技倆、そして人生觀と世界觀のすべてをこのレコードに叩き込んだ。そんな強い印象を受けます。
『Help』『Rubber Soul』『Revolver』で、既に彼ら(特に、ジョン)の内側で膨らんできてゐた、外側で起こつてゐる狂騒劇に對する葛藤・憤懣・問ひが顯わになり、それと共に、作曲、作詞、アレンジ、演奏、録音技術などにわたつて急激にその質を高めてきてゐたのですが、このアルバム『Sgt Pepper's Lonely Hearts Club Band 』には、それまでに欝積してゐたフラストレーションから完全に解き放たれ、その時點で自分たちが持つすべてを爆發させることができた彼らの姿が音として刻み込まれてゐるやうに感じます。
その音像は、第二のデビューのやうな初々しさ、みずみずしさ、躍動感に滿ち溢れてゐて、サマーラブと云はれた1967年夏、どれほどのときめきをもつて世界中の若者がこれを激しく聽いただらう、そんな想像に駆られます。
「Getting Better 」「She's Leaving Home 」「When I'm Sixty Four 」「Lovely Rita 」(全部、ポールの曲)など、青盤(1973年発売のベスト盤)には入つてゐない名曲が目白押し。
とりわけ「She's Leaving Home 」はこのモノラル盤ではステレオ盤に比べてピッチが速く、この靜かで美しい曲には、この輕やかさがとてもよく合つてゐて、個人的にはステレオ盤のものより大好きです。
アナログ盤のB面一曲目の「Within You Without You」。ジョージがインド音樂に深く深く入り込んで生まれた作品で、『Revolver』に收められてゐた「Love You To」よりも數段深みを増し、このアルバムに瞑想的な靜けさをもたらしてゐます。
そして最後の曲「 A Day In The Life 」において、それまでの狂氣の沙汰といつてもいいやうなビートルズ旋風をジョンは高みから見下ろしてゐるやうです。
ジョンは、音樂を創つていく共同體としてのビートルズに對して、「俺は、いち拔けた」といふ念ひを意識と無意識のはざまで、持ち始めたやうに感じられます。
ポールの「さあ、俺たちはこれからだ!」といふ意氣込みと對照的であるがゆゑに、このアルバムは獨特の複雜な調べを底に響かせてゐます。
だからこそ、この作品には盡きせぬ魅力があるのかもしれない。
ジャケットにも、これまでにないカラフルさと、底知れないやうな不安が同居してゐて、1967年の空氣感を見事に表し、更にシーンを牽引していつたことが伺はれます。
今年6月、このアルバムが発売されて50年。
わたしがこのアルバムを手に入れて40年。
ザ・ビートルズによる20世紀大衆音樂アルバムの最高傑作だと、いまだに思ふのです。
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