2017年04月26日

われらが萬葉集【鳥の賦〜大伴家持の情の軌跡  塙狼星】


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三番目にご紹介しますのは、塙狼星さんです。
まさに、全身全霊で萬葉集の歌、大伴家持の歌に取り組んでおられます。
 
 
【鳥の賦〜大伴家持の情の軌跡  塙狼星】 
 
「かささぎの 渡せる橋に おく霜の 白きを見れば 夜ぞ更けにける」
 
百人一首にあるこの歌は、大伴家持の作とされています。天孫降臨以来の名門貴族に生まれた家持は、冬空のもと霜の降りた宮中の階を天の川にかかる鵲(かささぎ)の橋と見立て、彦星と織姫の逢瀬を思い描いたのでしょう。
 
大伴家持は、日本最古の歌集である萬葉集の編集に深く関わっていたとみられています。全二十巻、四五一六首の歌は、雄略天皇の歌に始まり家持の歌に終わります。家持の生きた時代は聖武天皇が長らく在位をした華やかな天平の世。大陸の文化を受け入れて大和の國が大きく変わりゆく時代でもありました。その激動の時代に懸命に生き、魂を震わせ身を削りながら歌を詠み続けた人間家持に、私は千二百五十年の時を越えて強く魅かれます。
 
家持は、鳥を愛し多くの歌を詠みました。雉、鴫、燕、千鳥、鷹、鶯、霍公鳥、そして雲雀。中国、日本の古代において、鳥は天と地、あの世とこの世をつなぐ霊威をもった存在と認識されていたようです。岩戸に籠った天照を導いたのは鶏の長鳴きでした。國ゆずりで建御雷神とともに芦原の中つ国に降り立ったのは天鳥船神。神武天皇は八咫烏に導かれ、橿原の宮の東方に位置する鳥見山で即位式、大嘗祭を行いました。倭建命は、伊勢の國で死して白鳥となって大和へ飛び去ったといいます。
 
家持は鳥の中でも、ことのほか霍公鳥(ほととぎす)を愛しました。國守として赴任した越(現在の富山県高岡市)の政庁から望む二上山を訪れるこの鳥は、京に住む大君、そして初恋の相手であり愛する妻である坂上大嬢と自分を結ぶかけがえのない存在だったのでしょう。あるいは、霍公鳥は家持自身だったのかもしれません。
 
このたび、言語造形によって萬葉集の響きを表現するにあたり、私は、家持を天翔ける一羽の鳥に見立てました。地にあって天を希求する一羽の鳥。その鳥の移ろいゆく魂の様を、全身全霊で表現できればと思います。


塙狼星 (はなわ ろうせい)プロフィール
一九六三年生まれ。京都大学理学博士(人類学、アフリカ研究)。二〇〇四年より言語造形家の諏訪耕志氏のもとでアントロポゾフィー(人智学)と言語造形を学ぶ。二〇〇六年十一月に、大阪市谷町において空堀ことば塾を立ち上げる。二〇一二年アウディオぺーデ・シュタイナー教育教員養成講座第六期修了。二〇一四年八月に非営利一般社団法人アントロコミュを設立。代表理事。



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