わたしたちの暮らしてゐる町には竜神様が祀られてゐる万代池といふ池があり、そこで、わたしは幼い頃からずつと遊んできた。ここは、いつも、清浄な空気を湛えてゐるやうな気がして、思ひが屈するときなどは、必ずここへ足を運び、木の下に何時間も座つたり、がむしゃらに走つたりした。父親ともここでよく一緒に時を過ごした。今日は、その父親が身罷つてから丁度十年目の日だつた。様々な想ひ出がある。ここは、いつも美しい。春の夕べ。親父は、どうしてるだらう。
春十年(ととせ) とほくに仰ぐ 祖(おや)の影
その影いまだ 我を包めり
春十年(ととせ) とほくに仰ぐ 祖(おや)の影
年ゆくごとに 澄みわたるかも